世界五階級制覇王者。世界戦のファニト・ルビリアル戦、シンピウェ・ノンクアイ戦ほかを紹介します。
ホルヘ・アルセ(メキシコ)
身長164cm:オーソドックス(右構え)
①ホルヘ・アルセ 12R 判定 ファニト・ルビリアル
(WBC世界ライトフライ級タイトル戦、2004年)

(感想:アルセがタイトル防衛。メキシコのロス・モチス出身のアルセ。世界三階級制覇するフェルナンド・モンティエルとは同郷の友人で、一緒にトレーニング。ニックネームは「Travieso(やんちゃ坊主)」。好戦的なスタイルで人気。アマチュアを少し経験し、16歳でプロデビュー。敗北はあったが、WBAの地域王座、NABO王座(いずれもライトフライ級)を獲得。ファン・ドミンゴ・コルドバ(アルゼンチン)を判定で下し、19歳でWBO世界ライトフライ級王者に。しかし、二度目の防衛戦の相手はあのマイケル・カルバハル。11RでのTKOで王座陥落。WBC王座奪取、防衛。これまで26勝(27KO)3敗1分、25歳。挑戦者ルビリアル(27歳)はフィリピン・マティ出身のサウスポーで、33勝(14KO)6敗7分。1994年、デビュー。ポンサクレック・ウォンジョンカムにKO負けで初黒星。日本で二連敗。ポンサクレックとの再戦に判定負け、タイで連敗。WBCインター王座(ミニマム級)獲得、防衛。ゾラニ・ペテロのIBF世界ミニマム級王座に挑戦して3-0の敗北。以来、全勝で、WBCインター王座(ライトフライ級)獲得、防衛。アルセとのWBC世界ライトフライ級暫定王座決定戦で3-0の敗北。正規王者となって防衛を続けるアルセと再戦。メキシコ・ティフアナでの一戦(レフェリーはトビー・ギブソン)。ガードを上げる両者。アルセは打ち方が良く、手数を出していくタイプで、左ジャブ、右ストレート、左フック。ルビリアルは左ストレート狙いで、カウンターを取ろうとする。なかなかガードが固いルビリアル。アルセは左のテクニック(斜め下からのフックなど)、コンビネーション(左ボディからの右ストレートなど)を使うが、相手のガードを崩せず。ただ、ルビリアルは応戦するが受け身の姿勢で、手数で劣る。8Rから変化。攻めるルビリアル、フットワーク&連打で反撃のアルセ。9R、ルビリアルが背後からの攻撃で減点。11R、ルビリアルの左ストレートがヒット。12R、両者もつれ合ってロープ外に転落。12R終了。判定は3-0。アルセが手数&ディフェンスで勝利。しかし、攻められて押され気味になるシーンも。ルビリアルは攻撃を仕掛けるのが遅すぎ。そういう性格なのか、その後も世界挑戦のチャンスを得たが勝てず。地域王座を獲得できたが、負けが込むようになっていった。)
②ホルヘ・アルセ 6R TKO トマス・ロハス
(WBCラティノ・バンタム級王座決定戦、2007年)
(ダウンシーン)
6R:左ボディでロハスがダウン
(感想:アルセがタイトル獲得。ルビリアル戦後のアルセ。WBC世界フライ級暫定王座獲得、防衛(アルセは「世界五階級制覇王者」とされるが、フライ級は暫定王者だった)。クリスチャン・ミハレスに敗れ、WBC世界スーパーフライ級王座奪取ならず。ロハスと再起戦。ロハスはメキシコ・ベラクルス出身のサウスポー。身長は173cmもある。メキシコ王座(スーパーフライ級)を獲得、防衛したが、クリスチャン・ミハレスに王座を奪われたことがある。直前の試合はパナマでアンセルモ・モレノに判定負け。ラスベガスでの一戦(レフェリーはジョー・コルテス)。ドレッドヘアーのロハスはボクサータイプ。右のガードをやや下げた構えから右ジャブ、シャープな左ストレート、フック連打。パワーはまずまずだが、当てるテクニックがある。アルセは左を使いながら右パンチ、左フックを狙うが、1Rから左ストレートを食う。接近戦。互いに手数。ロハスはディフェンスが巧く、時折パンチを入れる。アルセも右パンチを入れるが、巧くかわされるシーンも。6R、アルセが左フック、左ボディ攻め。ロハスは左右フック乱れ打ちで対抗するが、左ボディ一発でダウン。立ったがボディがかなり効いているらしく、反撃できずに連打されてレフェリーストップ。アルセがボディ打ちで勝利。良い打ち方のうえパワー。基本がしっかりできていることによって得られた勝利。ロハスは動きは良かったが、パワー不足か。しかしその後、WBC世界スーパーフライ級王座獲得。日本でも防衛。王座陥落後、山中慎介のWBC世界バンタム級王座に挑戦してTKO負け、二階級制覇ならず。その後も2022年まで多くの試合に出場した。)
その後のアルセ
ロハス戦の次の試合でメッグン・シンスラット(マニー・パッキャオをKOしてWBC世界フライ級王座を獲得したことがあるタイ人)を左ボディカウンターなどでダウンを奪い、1RでTKO勝ち。WBA世界スーパーフライ級暫定王者ラファエル・コンセプション(パナマ)にTKO勝ちで暫定王座を獲得(2008年)。WBA・WBC・IBF世界スーパーフライ級王者ビック・ダルチニアンに挑戦したが、敗北。ダルチニアンが王座返上。IBF王座の決定戦に出場することに。
③シンピウェ・ノンクアイ 12R 判定 ホルヘ・アルセ
(IBF世界スーパーフライ級王座決定戦、2009年)
(感想:ノンクアイがタイトル獲得。ノンクアイは南アフリカの東ケープ州ボーダーポスト出身の黒人。ニックネームは「Golden Master」(どういう意味なのだろう?)。アマチュアで活躍。プロではデビューから連勝でWBF王者に(スーパーフライ級)。王座を連続防衛。メキシコのロス・モチスでIBF世界スーパーフライ級王座挑戦者決定戦を行い、判定勝ち(相手はアルセの弟フランシスコ・アルセ)。その次の試合が、この決定戦。アルセ兄弟を連破なるか、といったところ。メキシコ・カンクンでの一戦(リングアナはジミー・レノン・ジュニア。アルセのセコンドにナチョ・ベリスタイン)。個性的なスタイルのノンクアイ。髪とヒゲを染め、頭はサッカーボールのよう。試合では距離を取ってジャブ、右ストレート、ディフェンス。なかなか地味な試合ぶりだが、左フックやインサイドからのパンチなどを当てる巧さがある。アルセはいつものように左フックからの右ストレートなどにパワー。しかし、パワーを入れすぎているのか、ブロックされたり、クリンチされたり、細かいパンチを食ったりでしっくりいかない。共に相手以外にも敵が。なぜかリングが濡れており、両者スリップ(特にアルセの方がよくバランスを崩していた)。レフェリーの指示でラウンド中にスタッフがモップやタオルでキャンバスを拭く。結局、 ノンクアイが細かいテクニック&ディフェンスでポイント上、優勢のまま12R終了。判定は3-0。ボクシングは不思議なもの。思いっ切り打ったからといって勝てるわけではないし、パワーがある方が負けることも珍しくない。負けたがアルセは最後まで前進。勝っても負けても自分らしい試合ができれば満足なのかも。その後のノンクアイ。実に意外なことに初防衛戦はドロー。二度目の防衛戦でTKO負け、王座陥落。アルセとWBO世界スーパーバンタム級王座を懸けて再戦したが、TKO負け。その次の試合もTKO負けで引退。アルセとの初戦後は勝ち星無し。パワー不足が原因か?)
④ホルヘ・アルセ 10R 引分 ロレンソ・パーラ
(WBO世界スーパーバンタム級王座挑戦者決定戦、2010年)
(感想:ノンクアイ戦の再起戦がWBO世界スーパーフライ級王座決定戦だったアルセ。これに勝利。しかし、防衛戦を行うことなく、上の階級へ。パーラはベネズエラ・マチケス出身。日本でもおなじみで、元WBA世界フライ級王者。坂田健史との防衛戦で体重を作れず、王座剥奪。しかも、試合に敗北。一気に階級を上げ、WBA世界スーパーバンタム級王者セレスティーノ・カバジェロに挑戦したが、勝てず。このところ二連勝だが、試合間隔がある。メキシコ・クリアカンでの一戦(リングアナはルペ・コントレラス。会場ではフェルナンド・モンティエルが観戦)。共に左のテクニック(ジャブ、フック)、ディフェンス。右ストレート、左ボディ打ちなどで攻めるアルセ。パーラは受け身の姿勢で足を使ったアウトボクシング。右ストレートからの左フックなど良いパンチを持っているが、パワーはあまり感じられない。攻めるアルセ、距離を取るパーラ。7R、パーラがラビットパンチで減点。8R、打ち合いに応じないパーラにアルセが「打ってこい」アピール。10R、パーラがワンツーからの左フック。10R終了。判定はドロー。攻勢点でアルセの勝ちでもよかったと思うが、逃げられるシーンが多かった。パーラは器用だったが、パワー不足。負けずに済んでよかった、といったところ。しかし、アルセとの再戦にKO負け。その後は連敗続きで引退。上の階級では通用しなかった。)
その後のアルセ
ウィルフレド・バスケス・ジュニアをTKOしてWBO世界スーパーバンタム級王座奪取で四階級制覇(2011年)。防衛戦でシンピウェ・ノンクアイにTKOで雪辱。決定戦でWBO世界バンタム級王座獲得、五階級制覇。ノンタイトル戦でロレンソ・パーラにKO勝ち。王座返り咲きを狙ってWBO世界スーパーバンタム級王者ノニト・ドネアに挑戦したが、KO負け。ラストファイトはWBC世界フェザー級王者ジョニー・ゴンサレスへの挑戦で、TKO負け。ゴング前には棒付きキャンディを口にくわえてリングアナにコールされるユーモラスな演出。試合では小さい身体ながらパワーとタフネス。最後まで挑戦する男だった。