世界ウェルター級王者。世界王座戦。モーリス・ブロッカー戦、ホルヘ・バカ戦(再戦)、鄭栄吉戦を紹介します。
ロイド・ハニガン(イギリス)
身長173cm:オーソドックス(右構え)
①ロイド・ハニガン 12R 判定 モーリス・ブロッカー
(WBC・IBF世界ウェルター級タイトル戦、1987年)
(感想:ハニガンがタイトル防衛。シルベスター・ミッティを下して欧州、英連邦、英国ウェルター級王座を統一したハニガン。「欧州ナンバーワン」として当時連勝中だったドナルド・カリーの世界ウェルター級王座に挑戦。カリーは無敵のミドル級マービン・ハグラーに挑戦する話もあったほど期待されていたが、ハニガンがカリーを棄権に追い込んで勝利(大番狂わせ)。カリーは試合前、ハニガンを「Raggamuffin(ボロボロな姿の男)」呼ばわり。しかし、ハニガンはそれが気に入って、以後、ニックネームに(「ぼろぼろの男」とはハニガンの出身国ジャマイカでは「ストリートのタフガイ」を意味するそうだ)。WBA・WBC・IBFの三つの王座を一気に手に入れたが、トラブル。WBAが南アフリカのハロルド・ボルブレッチとの王座防衛戦を命じたが、ハニガンは南アフリカのアパルトヘイトを強く嫌悪。試合を拒否してWBA王座を返上(1986年12月)。さらにWBAベルトをゴミ箱に捨てるパフォーマンス(タブロイド紙のカメラマンにそそのかされてやったそうだ)。ベルトをゴミ箱に捨てるのは「王座への敬意を欠く行為」だと批判され、ハニガンは反省。初防衛戦の相手は元WBA世界J・ウェルター級王者ジョニー・バンフス。2RでのTKOでハニガン勝利(このところ好戦的なハニガン。なぜファイタータイプになったのかと聞かれ、「この業界には残業代が無いから」と答えたという。「どうせ同じファイトマネーなら試合を早く終わらせた方がいい」の意)。そしてブロッカーと二度目の防衛戦。挑戦者ブロッカーはワシントンDC出身の黒人(俳優のサミュエル・L・ジャクソンっぽい顔立ち)。学校時代の同級生サイモン・ブラウンの影響でボクシングを始める。アマチュアで優秀な戦績。長身(身長188cm)を活かしたスタイルでプロデビュー以来、全勝。北米ウェルター級王座を獲得した実績。英国ケンジントンでの一戦。スラリとしたブロッカーはウェルター級時代のトーマス・ハーンズのよう。しかし、パワーはそこそこで、距離を取ってジャブを飛ばすボクサータイプ。ただ、接近戦で見せるインサイドからのアッパー気味のボディ打ちは効果がありそう。ハニガンはジャブ、右ストレート、コンビネーション(ワンツーからの左フック、ほか)で攻めの姿勢。時折サウスポーにスイッチしてパワーで押そうとする。パワーのハニガン、テクニックのブロッカー。互いにディフェンスができるため、決定打を打ち込めない。11R、ハニガンがサウスポースタイルで左フックをクリーンヒットさせるが、ブロッカーは反撃。12R、ブロッカーがローブローでついに減点。12R終了。判定は3-0。ハニガンが攻勢点で勝利。ブロッカーはやはりパワー不足。タフさ、テクニックはあったが、「仕留めるパワー」に欠けるのが惜しい。その後、ブロッカーはマーロン・スターリングを破ってWBC王座獲得。親友サイモン・ブラウンに敗れて王座陥落。次いでIBF王座を獲得したが、「新星」フェリックス・トリニダードに強烈にKOされて王座陥落。実力はあったが、「真のトップ」にはなれなかった。)
その後のハニガン
ブロッカー戦の次の防衛戦の相手はジーン・ハッチャー(元WBA世界J・ウェルター級王者。ジョニー・バンフスを破って王座獲得)。45秒でハニガン防衛。その次はホルヘ・バカ(メキシコ)との防衛戦。負傷判定で王座陥落。しかし、バカはIBFランクに入っていなかったため、IBFはこの試合を認めず。IBF王座は空位になり、サイモン・ブラウンが新王者に。ドナルド・カリーを破ってWBA・WBC・IBFの世界ウェルター級王座を獲得したハニガンだが、結局、全て失ったうえに世界ウェルター級王座は分裂。そしてWBC王座のみを懸けてバカと再戦。しかし、マネージャーのミッキー・ダフとのスレ違いが表面化するなど不穏な雰囲気。
②ロイド・ハニガン 3R KO ホルヘ・バカ
(WBC世界ウェルター級タイトル戦、1988年)
(ダウンシーン)
3R:右ボディフックでバカがダウン
(感想:ハニガンが王座奪回。王者バカ(変わった名だが、カタカナで書くと妙な感じになるだけ)。メキシコ・ウェルター級王座を長らく防衛してきた男で、ピークを過ぎたピピノ・クエバス、ソウル・マンビーに勝利。しかし、IBFからは評価されていなかったため、ハニガンに勝利して得たのはWBC王座のみ。英国ウェンブリーでのダイレクト・リマッチ(初戦もウェンブリーだったが、会場は別。レフェリーはジョー・コルテス)。共に足でリズムを取る。ややアップライトなバカはジャブ、ストレート、接近してフックを使うが、全体的に手打ち気味で迫力に欠ける。ただ、手数は多めで、積極的に前に出る姿勢。ハニガンはディフェンスしながらストレート、フック。時折、左フックを当てる。3R、ロープ際にバカを追い込むハニガン。右ボディフックでバカがダウン。座ったまま10カウントを聞いた。ハニガンが楽勝。「メキシカン」と言えば腰の入った強いフックを打つイメージがあるが、バカのパンチにはパワーが感じられず。ハニガンとしては「マトモに打たれなければ大丈夫」といった自信があったのでは? その後のバカ。再起戦でサイモン・ブラウンのIBF王座に挑戦してKO負け。テリー・ノリスに2-1の敗北。クインシー・テーラー、マーク・ブリーランドに連勝。ロイ・ジョーンズ・ジュニアに1RでKO負け。メキシコ王座(J・ミドル級)、WBC米大陸王座(ウェルター級)を獲得するなど息の長い活動。しかし、世界戦はブラウンとのIBF王座戦が最後となり、世界王座に就いていた期間は短かった。)
③ロイド・ハニガン 5R TKO 鄭栄吉
(WBC世界ウェルター級タイトル戦、1988年)
(感想:ハニガンがタイトル初防衛。奪回した王座の初防衛戦。挑戦者の鄭(24歳)は韓国人。三度目の挑戦で韓国王座(ウェルター級)獲得。連続防衛。李承純(マーク・ブリーランドとWBA世界ウェルター級王座決定戦を行って1RでKO負け)を破って東洋太平洋王座(ウェルター級)獲得。連勝の勢いでハニガン(28歳)に挑戦。アトランチックシティでの一戦(レフェリーはトニー・オーランド)。互いにジャブ、ストレート、左フック。タフそうな顔と体格の鄭はワンツー、ボディ攻め。ややゴツいパンチ。ハニガンはパンチのスピードで上だが、クリンチを多用(相手のスタミナを奪う作戦。以前はよくやっていた)。3R、激しい打撃戦。4R、ハニガンがサウスポーにチェンジして右ジャブ、左フックを当てる。5Rにハプニング。接近戦の中、ハニガンの左ボディ打ちがローブローに。倒れ、のたうち回る鄭。立つことができず、「戦意喪失」と見なされてTKO負け。ハニガンがつまらない勝ち方。ローブローがどの程度強烈なものだったのかは鄭にしかわからないが、「TKO」扱いには違和感。ただ、連打の回転はハニガン。続行していたとしても鄭が勝てたかどうか。また、この日のメインは「マーロン・スターリング vs. トーマス・モリナレス」のWBA戦。ゴング後のパンチでスターリングが倒れるハプニング。結局、「ノーコンテスト」扱い(この出来事がキッカケとなって「ラウンド終了10秒前に合図するルール」ができた)。世界ウェルター級王座戦が二つとも妙な結果に終わったのは偶然か? その後の二人。ハニガンは次の試合でマーロン・スターリングにTKO負けで、王座陥落。鄭は新王者スターリングのWBC王座に挑戦するチャンスを得たが、判定負け。東洋太平洋王座(J・ミドル級)を獲得して連続防衛。世界王座は獲れず、アジアの実力者にとどまった。)
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